真の愛と慈悲3

 

「私には大事にすべき自分の家族があり、統治すべき国がある。私自身の家族と国民を愛さないのなら、どう大事にするべきなのか。明確にできるよう助けて欲しい。」

 

「もちろん、あなたは家族と自国民を愛するべきです。 でも、あなたの愛は、家族と自国民を超えて拡大できるのです。

 

王子と王女を大切に思う愛は、王国の他の若い人々を大切にすることをとどめるものではありません。

 

若者すべてを愛することができれば、今の限りある愛は、あらゆるものを抱擁する愛となり、王国のすべての若者はあなたの子供となるのです。

 

これが慈悲の心をもつという意味なのです。

 

これはただの理想ではなく、実現できるものです。

 

特にあなたのように数多の手段が自由になる方にとっては。」

 

 「他国の若者たちについてはどうなるのだ。」

 

「あなたの統治下になくても、他国の若者を自分の息子や娘として愛することを止めるものは、何もありません。

 

自国民を愛することは、他国民を愛さないことの理由にはならないのです。」

 

「私の主権下でない彼らに、どう愛を示せるのか」

 

ブッダは王を見つめた。

 

「一国の安全と繁栄が、他国の貧困と不安定さに依存してはなりません。

 

陛下、恒久の平和と繁栄は、すべての国の福祉を共通の目標として、国々が協力した時にのみ可能となるのです。

 

コーサラ国が平和を喫し、国の若者たちが戦地で命を落とさないことを真に求めるのなら、他国が平和になるのを助けなければなりません。

 

外交や経済の政策も、真の平和を可能にするためには、慈悲の道を辿らなければならないのです。

 

同時に、自国を愛し大切にするように、マガダ、カシ、ヴィデハ、シャカ、コーリヤといった他国も愛し、大切にできるのです。

 

陛下、昨年私はシャカ王国の家族を訪ねました。ヒマラヤの麓のアランナクティヤで数日間休息し、その多くの時間を、非暴力を基盤とする政策について考えました。

 

そこで、国々が投獄や死刑といった暴力的な対策をとらざるを得ない結果に陥ることなく、平和を喫することができると分かったのです。

 

これらを父のスッドーダナ王に話しました。同じ案をこの機会にあなたとも分かち合いましょう。

 

慈悲を育む統治者は、暴力的な手立てに頼る必要が無いのです。

 

王は感激した。「素晴らしい!誠に素晴らしい!あなたの言葉は非常に示唆に満ちている。まさしく本物の覚醒者だ!今日の話をすべて熟考すると約束しよう。智慧に満ちたあなたの言葉を洞察しよう。

 

だが今、ひとつ簡単な質問をさせて欲しいのだ。

──ティク・ナット・ハン